その口臭、歯周病(歯槽膿漏)が原因かも?
口臭の原因はさまざまありますが、実は原因として最も多いのは「歯周病」です。歯周病由来の口臭は、他の原因と比べてとても強烈な臭いを発する特徴があります。また、放っておくと炎症が進行し、歯を失ってしまう一番の原因ともなり得る恐ろしい病気なのです。
そこで今回は、歯周病が原因で起こる口臭について詳しく解説します。口臭が気になる方はぜひ参考にしていただき、予防策としてお役立ていただければ幸いです。
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●この記事を書いた人●
ひぐち歯科クリニック 院長
歯科医 樋口均也
日本口臭学会 口臭指導医大阪府茨木市のひぐち歯科クリニック院長。大阪大学歯学博士。口臭治療のスペシャリストとして約30年間口腔診療に従事。テレビ・新聞・雑誌等多くのメディアに出演・解説・執筆の経験を持つ。日本口臭学会 口臭指導医・厚生労働省 臨床研修指導医・ドライマウス研究会認定医・日本中医学会中医学認定医・インタネット医科大学口腔内科教授。
執筆記事
・耳鼻咽喉科の情報専門誌「JOHNS」 執筆記事論文掲載
・保険同人社「暮らしと健康」親知らずの悩みについて解説
・かんさい情報ネットten.「チーズ人気のカラクリ チーズの虫歯予防効果についての検証」
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目次
強烈な口臭の正体。それは歯周病(歯槽膿漏)
歯周病は、歯茎が細菌感染を起こす炎症性の疾患です。歯磨きが行き届かず歯と歯茎の境目に歯垢が溜まったままになっていると、増殖した歯周病の原因菌が出す毒素によって炎症を起こし赤く腫れてしまいます。
初期症状は「歯肉炎」と言われ軽い発赤(ほっせき)だけですが、進行すると歯茎の腫れが進んで歯周ポケットが深くなり出血や排膿を伴うようになります。この段階になると「歯周病(歯槽膿漏)」といわれ、歯磨きだけでは治すことが難しくなってしまいます。
進行すると歯が抜けることも
歯周病は自然に治ることはありません。炎症が進行すると歯茎の腫れが大きくなり、歯根部分まで細菌感染が及んでしまいます。やがて歯を支える顎の骨(歯槽骨)を溶かし、支えきれなくなった歯が抜けてしまうこともあるのです。
なぜ口臭の原因になるの?
歯周病による口臭は、歯周病の原因菌が出す毒素が原因で発生します。この毒素には、揮発性硫黄化合物(VSC)というガスが含まれていて、これが強い口臭の原因となってしまいます。
歯周病から起こる口臭の特徴
歯周病から起こる口臭は、メチルメルカプタンや硫化水素、ジメルサルファイドといった種類の揮発性硫黄化合物が主な原因です。臭いの表現として、タマゴや玉ねぎが腐ったような臭いや、生ごみのような臭いと表現されることがあります。
このような刺激臭がお口からする場合は歯周病が進行しているサインと考えてよいでしょう。
日本人の半数以上が歯周病?
歯周病は「サイレントキラー」とも呼ばれることがあり、自覚症状がなく進行する病気です。そこで歯科医院では、歯周ポケット4mm以上や歯茎からの出血を歯周病の診断基準にしています。日本人がどれくらいの割合で歯周病であるかを調査した「歯科疾患実態調査」でも同様の基準が評価項目として用いられています。
傾向として高齢者になるほど歯周病罹患の割合が高く、45歳以上では過半数を占めます。また、歯茎から出血があるのは20代から70代までどの年齢層も4割前後となっており、平均すると日本人の半数以上は歯周病の症状があるということがいえるでしょう。
少し前までは日本人の約8割が歯周病と言われていた時期もありましたが、最近では減少傾向にあると言われています。要因として、歯の喪失予防の8020(ハチマルニイマル)運動などが周知され「予防歯科」という言葉も耳にするようになるなど、歯周病予防の意識が向上したことが考えられます。
歯周病の自覚症状とセルフチェック
とはいえ、年齢を重ねるごとに歯周病の罹患率は高くなりやすく、30代以上では3人に1人が歯周病ともいわれています。加齢とともに罹患率が上昇することには間違いありません。
初期段階では自覚症状が少なく気づきにくく進行しやすいですし、実は虫歯よりも歯を失う可能性が高い病気です。早期発見・早期治療のためにも、症状を理解してぜひセルフチェックしてみてください。
- 自覚症状のセルフチェックポイント
- ①歯茎の色が赤く丸みを帯びている
- ②歯の長さが長くなった気がする
- ③歯と歯の間にすき間ができた
- ④歯と歯の間に食べ物が挟まりやすい
- ⑤歯磨き時に歯茎から出血しやすい
- ⑥歯茎を押すと膿がにじみ出る
- ⑦歯を押すとグラグラする
- ⑧周囲から口臭を指摘された
歯周病(歯槽膿漏)にかかりやすい人の共通点
<歯磨きをしない人>
当たり前のことですが、歯磨きをしない人や、していたとしても細かい部分まで行き届いてない人は、同じ場所に長期に歯垢が蓄積してしまい歯周病にかかりやすくなります。
<食生活が乱れがちな人>
食事の時間や回数が定まっていない人や、甘いものを好む人は、口内環境が乱れがちです。歯垢もできやすいので、当然歯が汚れやすくなります。歯垢が多く口内環境が悪ければ、細菌の活動が活発になり、歯周病になりやすくなります。
<唾液が少ない人>
唾液には「自浄作用」といって、口腔内を自然にお掃除する作用があります。また、食物を送り込むためには欠かせない存在で、食物残渣を減らす効果もあります。さらに、口内のpHを中性に戻してくれたり、細菌の活動を抑制してくれたりもします。
唾液の分泌が少ないと自浄作用や中和作用、抗菌作用が働きにくくなり、歯周病になりやすい口内環境ということになります。
このほかにも以下のようなケースでは、唾液の分泌量が減り歯周病リスクが高まるので注意しましょう。
<口呼吸の人>
日常的な呼吸が鼻ではなく口で行ってしまう人は、常に口が渇いてしまうため歯周病のリスクが高くなります。
<ストレスや疲労が蓄積している人>
過度なストレスや疲れは唾液の分泌量を減らしてしまいます。口の中のネバつきが気になる、歯の表面を舌で触るとザラザラしているというような症状がある方は、歯周病になりやすいか進行しやすい状態です。
<妊娠中の人>
妊娠中は女性ホルモンの分泌量が増加し、歯茎からも口腔内に滲出します。歯周病の原因菌は女性ホルモンを好む性質があり、活動が活発化するため、妊娠性歯肉炎になりやすいと考えられています。
歯周病(歯槽膿漏)の予防にはセルフケアが大切
歯周病予防で一番大切なのは「毎日の歯磨き」です。ただ漫然と行うのではなく、質の高い行き届いた歯磨きでなければ意味がありません。歯垢が蓄積しやすい歯と歯茎の境目を狙って磨くことで歯垢を効率的に落とし、歯茎をマッサージする効果も期待できます。
清掃補助具も取り入れましょう
歯と歯の間はどうしても歯ブラシの毛先が届きません。また、歯並びによっては磨きにくい部分もあるでしょう。デンタルフロス(糸ようじ)や歯間ブラシ、ワンタフトブラシといった清掃補助具を用いることで、歯垢除去率がさらにアップします。
また、お口の中のネバつきが気になる方は、洗口液などを活用するのもおすすめです。
ストレス解消に努めましょう
ストレスや疲れを長期間溜め込まないように、適度にストレス解消を心がけましょう。お口の不調を感じたら、疲れや緊張をため込んでしまっていないか考えてみてください。
定期的に歯科医院を受診しましょう
何も困りごとが無くても歯科医院で定期検診を受けることも、歯周病予防に効果的です。毎日の歯磨きではどうしても落としきれないガンコな汚れや歯石を定期的に除去してもらいましょう。
また、歯磨きはどうしても磨きグセが出てしまうものです。定期的に歯科衛生士による歯磨き指導でチェックしてもらい、磨き方を伝授してもらうのも効果的です。
進行した歯周病は歯医者さんに相談しよう
出血や排膿が起こり「もしかしたら歯周病?」と思った頃には、すでに歯磨きでは治らない段階になっている可能性があります。進行した歯周病は歯科医院に相談し、できるだけ早く対処・治療を受けるようにしましょう。
歯科医院で受けられる検査
歯科医院で受けられる検査は、基本的に以下の4つのような項目があります。他にも必要に応じて検査を行っている場合もありますので、かかりつけの歯科医院で確認してみてください。
- <1.問診と見た目による診察>
- 歯茎の状態や自覚症状などを確認します。
- <2.歯周ポケットの深さ測定と出血の有無>
- 歯周ポケットの深さと、チェック時出血の有無によって、歯周病の進行度を確認します。
- <3.歯の動揺チェック>
- 歯を支える歯槽骨が破壊されていると動揺を伴うため、歯に動揺があるか確認します。
- <4.レントゲン撮影>
- レントゲンで歯槽骨(歯を支える顎の骨)が健康か、動揺があればどのくらい破壊されているかを確認します。
上記の検査結果を受けて治療方針が決定されます。
治療方針の決定
治療は基本的な歯面の治療に加え、必要に応じて外科的な治療を施す場合もあります。患者の症状や状況に合わせて歯科医師が判断し提案されます。
歯面の清掃
炎症の原因となっている歯の沈着汚れを落とすことから始めます。歯の表面に沈着した歯石を除去するスケーリングや、歯の根っこを含め歯面に毒素や微生物で汚染された表層を除去するルートプレーニングです。スケーラーという器具や専用の器械を用いて行われます。
噛み合わせの調整
歯がグラグラしている場合には、噛んだ時の圧力で歯茎への負担が大きくなるため、歯を削ったり歯科用の接着剤で隣接歯と固定したりするなどの処置を行うこともあります。
外科的治療
歯面清掃や噛み合わせの調整を行っても改善が見られない場合や、ポケットが深すぎて汚れが除去できない場合には、外科的な処置を行うことがあります。
歯茎を切開して深部の汚れを取り除いたり、大きく腫れた歯肉を切除したりするなどの治療があります。また、破壊された部分の骨を再生させる治療を行う場合など、必要性に応じて提案されます。
まとめ
歯周病は一度なってしまうと治りづらい病気です。進行すると出血や排膿、口臭といった不具合だけでなく、歯を失う原因になってしまいます。また、歯周病菌が血液を介して体内に侵入し、身体に悪影響を及ぼす要因になる可能性もあるとも言われています。
初期症状がなく進行しやすい病気ですから、日頃からかからないための予防がとても大切です。そのためにも、何も症状が無い方でも半年に1回、もしくは年に1回は歯科医院で定期検診を受けることをおすすめします。
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