親知らず抜歯後は口臭が強くなる?歯科医が教える原因と対策
口由来の口臭では、歯や舌の汚れ、虫歯、歯周病などのほかに、親知らずが臭いの原因となるケースも珍しくありません。
親知らずは生え方や本数に個人差があるため、親知らずがあることに気づかず、知らぬ間に口臭の原因になっているという方もいらっしゃいます。また、抜歯後に間違ったケアをしたため口臭が発生するケースもあります。
この記事では抜歯前の親知らずと口臭の関係や、抜歯後に親知らずが臭いの原因にならないための対策法について、詳しくご紹介していきます。
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●この記事を書いた人●
ひぐち歯科クリニック 院長
歯科医 樋口均也
日本口臭学会 口臭指導医大阪府茨木市のひぐち歯科クリニック院長。大阪大学歯学博士。口臭治療のスペシャリストとして約30年間口腔診療に従事。テレビ・新聞・雑誌等多くのメディアに出演・解説・執筆の経験を持つ。日本口臭学会 口臭指導医・厚生労働省 臨床研修指導医・ドライマウス研究会認定医・日本中医学会中医学認定医・インタネット医科大学口腔内科教授。
執筆記事
・耳鼻咽喉科の情報専門誌「JOHNS」 執筆記事論文掲載
・保険同人社「暮らしと健康」親知らずの悩みについて解説
・かんさい情報ネットten.「チーズ人気のカラクリ チーズの虫歯予防効果についての検証」
親知らずが口臭の温床に
「親知らず」は上下、左右の一番奥に生える永久歯の通称です。永久歯は通常、15歳前後(中学生の間)に大方の歯が生えそろいますが、親知らずだけは20歳前後ごろに遅れて生えてきます。まだ平均寿命が短かった時代には、親知らずが生えてくる頃に親と死別している人も多かったため、この名前がつけられたといわれています。
永久歯はこの親知らずを入れた「32本」が本来の本数です。しかし親知らずの生え方には個人差があり、4本すべてそろっている人もいれば、もともと親知らずがない人もいます。さらに顎の小さい現代人では、親知らずがあっても真っすぐに生えないケースや、歯ぐきに埋もれたまま生えてこないケースも少なくありません。
“親知らず=抜歯”といわれるのも、実はここに理由が隠されています。歯にとって重要な「食べ物を噛む」という動きは、上下の歯が真っすぐに生えそろってはじめて有効なものとなります。しかし上下の一方だけが生える、または横向きや斜め向きに生えた歯はその機能が果たせないばかりか、そこが細菌の温床となってしまいます。
同じ永久歯でありながら、なぜ親知らずだけが「抜歯」の対象となることが多いのかというのも、以上のような理由があるためです。
親知らずと口臭の関係
口臭の多くは、口の中の嫌気性菌(けんぎせいきん)が作り出す「揮発性硫黄化合物」というガスが臭いの元となっています。嫌気性菌は酸素が苦手な細菌で、歯と歯ぐきの間など、酸素が届きにくい狭いすき間を好んで生息するのが特徴です。
したがって、口の中でこの嫌気性菌が集まりやすい場所こそが口臭の“発生源”であり、親知らずもその発生源のひとつに挙げられます。
永久歯の中でも特に歯ブラシが届きにくい親知らずは、従来から食べかすが溜まりやすく、細菌たちにとっては格好の住みかとなります。加えて、横向きや斜め向きに生えている親知らずやその周囲には、嫌気性菌が好む狭いすき間も多く存在しています。
親知らず周囲を磨いた際に歯ブラシが臭ったり、口の奥のほうから嫌な臭いを感じたりした場合は、親知らずが口臭の原因になっている可能性が高いでしょう。
親知らずは抜歯するべき?
抜歯になるケースの多い親知らずですが、親知らずがあるからといって「必ず抜かなければならない」というわけではありません。たとえば上下が真っ直ぐ生えていて「噛む」という機能をしっかり果たしている親知らずであれば、他の永久歯と同じく正しいケアを行えば残すことができます。
つまりその親知らずを残すことにメリットがあれば「抜かない」、デメリットのほうが大きければ「抜く」ということです。ほかにもその具体的な基準に、以下のような項目が挙げられます。
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【抜いたほうがよい親知らず】
①一部だけが萌出し、今後もそれ以上は生えてこない
②横向きや斜め向きに生えている
③すでに虫歯や歯周病になっている
④腫れや痛みを繰り返している
⑤隣接する永久歯に悪影響を及ぼしている
⑥歯並びに影響を及ぼす(矯正治療など)
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【抜かなくてもよい親知らず】
①上下が真っ直ぐに生えて噛みあっている
②歯磨きできれいに磨けている
③骨の中に完全に埋まっており、今後も他の歯に悪影響を与えない
④将来、入れ歯やブリッジの支台、または移植歯として利用できる
抜歯にかかる費用
親知らずを抜いたほうがよいと診断された場合、レントゲン検査やCT検査で親知らずの位置や方向などの確認のうえ、抜歯治療をおこないます。
◇抜歯にかかる時間・抜歯後の痛みや腫れについて
親知らずの抜歯は、その周囲に麻酔を十分に効かせてから行うため、処置中に痛みを感じることはほとんどありません。
親知らずでも真っ直ぐに生えているものは短時間(30分以内)で抜けるものが多く、抜歯後の腫れや痛みも少なくすみます。
一方で横向きや斜め向きに生えている親知らずについてはそのままでは抜けず、歯をいくつかに分割したり、周囲の骨を削ったりする必要があります。このようなケースは特に下の親知らずに多く、抜歯の難易度が高くなるため処置にも時間がかかる(1時間程度)ほか、抜歯後に腫れや痛みも伴いやすくなります。
◇抜歯後の経過(穴が塞がるまで)
抜歯後は翌日に傷口の消毒を行い、抜歯の際に歯ぐきを糸で縫った場合にはさらに1週間後に抜糸の処置を行います。抜歯した部分には当日~翌日ごろに「かさぶた」ができ、そこから1ヶ月程度で表面上の”穴“は塞がります。ただしその下で穴が完全に埋まる(新しい骨ができる)までには、半年~1年ほどの期間を要します。
◇抜歯のタイミング
抜歯のタイミングについては、患者さんのスケジュールに合わせて決定していきます。特に術後に腫れや痛みが出やすいと診断されるケースについては、その旨を考慮したうえで抜歯の日時を決めることが大切です。
例えば、重要な仕事や旅行、受験などのイベントが控えている場合は、そのイベントの1ヶ月以上前かもしくはイベント後の抜歯処置を検討します。その間にもし痛みや腫れがある場合には、消毒や投薬などの応急処置で対応していきます。
◇抜歯の費用
親知らずの抜歯には保険が適用されます。費用は抜歯の難易度によって異なりますが、簡単な抜歯で3,000円~5,000円程度、難しい抜歯で6,000円~10,000円ほどとなります(初診料・検査費用込)。
抜歯後の口臭対策
抜歯後の傷口には汚れや細菌が付着しやすく、しばらくは口臭が発生しやすい環境となります。しかし口臭が気になるからといって、抜歯した部分を歯ブラシで磨いたり、うがいを頻繁に行ったりするようなことは控えるべきです。
その理由は、歯を抜いた部分にできた「かさぶた」が歯ブラシやうがいの刺激で剥がれてしまうと傷の治りが悪くなり、かえって口臭が長引いてしまうためです。抜歯後1週間ほどは口臭が気になっても、まずは傷口を安静に保つことに留意しながらこの期間を乗り切りましょう。
抜歯後に感じる口臭は、通常は1~2週間程度で治まるものばかりです。しばらくは歯を抜いた部分の凹みに食べカスが溜まりやすくなりますが、術後1週間が経てば歯磨きやうがいも通常通りに行えます。ただし口臭が1ヶ月以上続く場合は、傷口の治り方に問題がある可能性も否定できないため、早めに歯科医院に相談しましょう。
女性は要検討
親知らずの抜歯が必要な女性で、将来妊娠する予定がある方の場合は、妊娠する前に抜歯を済ませておくことをおすすめします。
女性は妊娠すると、つわりや偏食などによって口の中が不衛生になることが多くなります。また歯ぐきに炎症を起こす細菌の中には、妊娠中に増加する女性ホルモン(エストロゲン)によって活動が活発になる菌も存在しています。このような理由から妊娠中は平常時よりも親知らずのトラブルが起こりやすいので注意が必要です。
妊娠中は抜歯治療が行えないため、万が一トラブルに見舞われてもしばらくは消毒や投薬などの応急処置でしのぐことになります。しかし妊娠中の痛みや腫れは、母体にとって大きなストレスにもなりかねません。
したがって妊娠予定のある女性の場合は、妊娠前の早い段階で抜歯をおこなっておきましょう。
まとめ
親知らずは口臭を招く要因のひとつですが、その親知らずを抜くか、抜かないかの判断は個々のケースによって異なります。
一方で親知らずが横や斜めに生えているケースや、一部だけが萌出しているケースでは、自身でその存在に気づかないことも少なくありません。したがって歯科医院で一度はレントゲンを撮り、親知らずの状態を確認しておくことをおすすめします。
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