虫歯から口臭がするって本当?虫歯が原因の口臭対策
口臭には健康な人にも生じる「生理的口臭」と、何らかの病的な原因によって生じる「病的口臭」の、大きく分けて2つの種類があります。虫歯は病的口臭に含まれ、口臭を発生させる要因のひとつに挙げられます。
ここでは虫歯で臭いが生じるメカニズムやその改善法、また虫歯予防に効果的な方法などをご紹介していきます。
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●この記事を書いた人●
ひぐち歯科クリニック 院長
歯科医 樋口均也
日本口臭学会 口臭指導医大阪府茨木市のひぐち歯科クリニック院長。大阪大学歯学博士。口臭治療のスペシャリストとして約30年間口腔診療に従事。テレビ・新聞・雑誌等多くのメディアに出演・解説・執筆の経験を持つ。日本口臭学会 口臭指導医・厚生労働省 臨床研修指導医・ドライマウス研究会認定医・日本中医学会中医学認定医・インタネット医科大学口腔内科教授。
執筆記事
・耳鼻咽喉科の情報専門誌「JOHNS」 執筆記事論文掲載
・保険同人社「暮らしと健康」親知らずの悩みについて解説
・かんさい情報ネットten.「チーズ人気のカラクリ チーズの虫歯予防効果についての検証」
虫歯が口臭の原因になる理由
歯は表面からエナメル質、象牙質、歯髄の3層から構成され、どの層にまで虫歯が進行しているかをCO~C4の5段階に分類していきます。虫歯による口臭は主にC2レベル(象牙質に達している虫歯)以上で発生しやすくなるのが特徴です。その理由として、以下の3つの要因が考えられます。
虫歯の「穴」にたまった食べカスの腐敗
虫歯が進行すると歯には少しずつ穴が空きはじめ、象牙質にまで達するころには肉眼で確認できるほど大きな穴になります。その穴に食べカスがたまると歯ブラシで取り除くことが難しく、食べカスが腐敗して臭いを発していきます。
歯の神経や血管の腐敗
虫歯が歯髄にまで進行(C3レベル)すると、歯髄内の神経や血管が腐敗して強い臭いを発することがあります。ただし通常はこの段階になると「熱いものがしみる」「歯がズキズキ痛む」といった症状も顕著になるため、多くの人は歯科医院を受診します。したがってこのような口臭が続くのは稀なケースですが、なかには虫歯の進行に気づかずに放置した結果、強い口臭を発生させてしまうケースがあります。
歯根(歯の根っこ)の先にたまった「膿」の臭い
大きな虫歯で神経が死んでしまった(C4レベル)ケースでは、やがて「歯根」と呼ばれる歯の根っこの先に細菌が感染していきます。これは「根尖性歯周炎(こんせんせいししゅうえん)」呼ばれる状態で、病状が進行すると根っこの先に膿がたまり、その膿が臭いの発生源になります。根尖性歯周炎は、過去に神経を取る治療をおこなった歯にも起こりやすいため注意が必要です。
虫歯の臭いとは?
虫歯による口臭では主に、“食べ物が腐った臭い(腐敗臭)”を発するようになります。これは虫歯の穴にたまった食べカスが口内の細菌に分解される過程で生じるもので、いうなれば「36℃前後の室内に生ゴミを放置している」のと同じ状態です。
また口内の嫌気性菌(酸素を好まない菌)が食べ物に含まれるタンパク質や神経、血管などを分解すると、“ゆで卵の臭い”と表現される刺激臭(硫黄臭)を発生させることがあります。このようなタンパク質を元にした「揮発性硫黄化合物」と呼ばれる物質は、周囲を不快にさせるほどの強い臭いを発生させます。
虫歯セルフチェック
次の項目は虫歯の代表的な症状を、その進行(COからC4)に沿って列記しています。当てはまる項目が複数に及ぶ場合は、できるだけ早めに歯科医院を受診しましょう。
- ☑歯の一部が白く(チョーク状)になっている
- ☑デンタルフロスを入れたときに、引っかかりを感じる
- ☑甘いものが歯にしみる
- ☑冷たいものを食べると歯がしみる
- ☑歯と歯の間に食べ物がはさまりやすい
- ☑歯が黒くなっている、もしくは穴が空いている
- ☑冷たいものだけでなく、熱いものでも歯がしみる
- ☑寝ているときに歯が痛くなる
- ☑食べ物を噛むと歯が痛い
- ☑何もしていなくても、歯がズキズキと痛む
- ☑歯が大きく割れて、根っこだけになっている
虫歯になる原因
虫歯はお口の中の虫歯菌が作りだす“酸”によって歯が溶けていく病気です。ミュータンス菌に代表される虫歯菌は、自身が生きていくうえで必要なエネルギーを糖分から作り出しますが、その際に酸を排出します。カルシウムやリンなどミネラルを主成分とする歯(エナメル質)はこの酸に弱く、長くさらされると歯は表面から少しずつ溶けだしていきます。これが「脱灰(だっかい)」と呼ばれる状態です。
歯を守る唾液の力
一方で私たちの唾液には虫歯菌が作る酸の力を弱める働きがあり、通常はこの唾液の働きによって酸性になった口の中を中和して脱灰が起こるのを抑えています。さらに唾液には「再石灰化」という歯の修復機能も備わっており、脱灰によってわずかに溶けだした歯質を元の状態に修復しています。口の中ではこのような「脱灰」と「再石灰化」が常に繰り返しおこなわれ、両者の均衡を保ちながら歯の健康を維持しているわけです。
しかし「歯を磨かない」「甘いモノを頻繁に食べる」といったことが長く続くと、口内には無数の虫歯菌が増殖し、多くの酸が産出されます。こうなると唾液の機能が追いつかず、歯が溶ける脱灰のスピードが加速し、虫歯の発症へとつながっていきます。
虫歯による口臭の治し方
病的口臭については、その原因となる病気を治さないと基本的に口臭自体も改善されません。したがって虫歯による口臭も、臭いの原因となる虫歯の治療が最優先となります。
<C1・C2レベルの虫歯>
エナメル質や象牙質に限局した虫歯(C1・C2レベル)は、虫歯になった歯質を削り取り、そこに詰め物や被せ物を入れて噛む機能や見た目を回復していきます。
<C3レベルの虫歯>
さらに歯髄に達した虫歯(C3レベル)では、感染した歯質の除去にくわえ、神経を取る「根管治療」が必要です。なお根管治療後は先の虫歯治療と同様に、被せ物や詰め物を入れていきます。
<C4レベルの虫歯>
歯冠(歯ぐきより上にある歯)が大きく崩壊したC4レベルの虫歯については、抜歯になる可能性が高くなります。抜歯をした場合には、失った歯の代わりとなる人工歯を補う治療(ブリッジ・入れ歯・インプラント)をおこないます。
口臭の応急処置
虫歯による口臭を応急的に治したい場合にも、まずは歯科医院で相談するのが賢明です。もし治療に時間がさけない場合にも、その旨を歯科医院に申し出れば、一時的に穴を塞いで仮蓋を入れる応急処置をおこなってもらえます。
虫歯で口臭が発するケースの多くは、病状がある程度まで進行している可能性が高いといえます。穴に詰まった食べカスを無理に取り除いたり、マウスウォッシュを多用したりといった安易な口臭対策は、痛みなどの症状を増悪させる恐れがあるため控えましょう。
虫歯にならないために
虫歯は口の中で「虫歯菌」「歯質」「糖分」「時間」の4つの条件を満たしたときに発症する病気です。したがってひとつの予防法にこだわるのではなく、4つの条件それぞれにアプローチした予防法を複合して実践するほうが虫歯を効果的に予防できます。
虫歯菌を減らす
「虫歯菌」については、毎日の歯磨きで口内の虫歯菌を減らす”プラークコントロール“が最も有効です。歯磨きは歯の表面だけでなく、デンタルフロスや歯間ブラシを用いた歯間清掃も必ずおこないましょう。またセルフケアでは落とさせないプラークは、定期的な歯科医院でのクリーニングがおすすめです。
歯質をカバーする
「歯質」はその人が生まれながらにしてもっている歯の性質のことで、歯質が弱いと酸への抵抗力が低く、虫歯リスクも高くなります。このような場合に有効なのが”フッ素“の活用です。フッ素にはエナメル質の結晶を丈夫にして虫歯になりにくい歯質を作るほか、歯の再石灰化をうながしたり、虫歯菌が酸をつくりにくくしたりする効果があります。セルフケアではフッ素配合の歯磨剤を活用するほか、歯科医院で定期的に高濃度のフッ素塗布をおこなうと虫歯予防の効果はさらに高まります。
糖分をコントロールする
「糖分」については“量”を減らすこともさることながら、食べる「時間」の長さ(摂取回数)に配慮することも虫歯予防では重要です。虫歯は虫歯菌が糖分から作る“酸”にさらされる時間が長くなるほど、発症のリスクが高まります。とくに糖分を多く含む缶ジュース・缶コーヒーなどを頻繁に飲む習慣や、ガム・キャンディーをよく口にする習慣のある人は要注意です。食事や間食は決められた時間のみにするか、もしくはシュガーレスの食品をうまく活用するなど、糖分を摂取する時間や回数を工夫しましょう。
まとめ
虫歯による病的口臭を予防する上では、何よりその原因となる虫歯にならないことが一番の近道です。日頃のセルフケアを徹底することはもちろんのこと、定期的な歯科医院の受診や食生活の見直しなどもしっかりおこなっていきましょう。
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