煮ても炒めても美味!ゆで干し大根
干した大根は、さらに乾燥機にかけて水分含有量を14%以下まで落としてから製品化されます。等級は色味で選別され、飴色が特級品。JAを通じて九州と関西を中心に、全国各地に出荷します。
湯に10分、水なら15分ほど浸して、軽く絞ってから調理します。定番は味噌汁の具。再加熱せずにサラダでも食べられ、イカや野菜と炒め煮したり、干瓢(かんぴょう)の代わりに押し寿司の具にしたり…。一度ゆでてあるからふっくらと戻り、味がなじみやすく、料理にもコクが出ます。
東日本大震災をきっかけにじわじわと注目度が高まっている干し野菜。常温で保存でき、料理の活用法も無限大。何より、野菜は干すとおいしくなります! 今回は九州の伝統的な干し野菜「ゆで干し大根」に注目。長崎県西海市で50年近くゆで干し大根の加工に取り組む生産者の大石健次さん・栄子さんご夫婦を訪ねて、製造工程や調理法を教えていただきました。
港町特有の磯の香りに混ざって鼻先に漂う、どこか懐かしい甘いにおい。方々からもくもくと上る白い湯気が、このにおいの出どころのようです。
長崎県西海市は、九州本土の最西部にあたる西彼杵半島北部に位置しています。東岸は大村湾、西岸は五島灘と角力灘に面しており、農水産業が盛んな地域です。中でも有名な産物が、ゆでた大根を干して作る「ゆで干し大根」。明治時代に農家が冬の保存食として作り始めたとされています。当時は自家用と、魚や肉などの物々交換用に作られていましたが、昭和30年頃に販売用として生産を拡大。生産者の高齢化による生産量減少が懸念されているものの、現在も約30軒の農家が製造を続けています。
ゆで干し大根は西海市全域で生産されていますが、特に盛んなのが面高郷です。冬になると五島灘にせり出したこの地区に冷たい北西の風が吹き付け、良質なゆで干し大根作りを可能にしているのです。大石健次さん・栄子さんご夫婦は、同地区で50年以上ゆで干し大根を作っている大ベテラン。訪ねたご夫婦の加工所には、あの甘いにおいが漂っていました。
栄子さんの案内で加工所に入ると、大石さんが収穫した大根を軽トラックで運んで来ました。荷台にどっさりと積まれた大根は、太さ20㎝、長さは80㎝ほどあるビッグサイズ! 「大栄大蔵という専用の品種です」と大石さん。一般的な青首大根の1.5~2倍ほどの大きさに育つ在来種で、西海市と五島市でのみ栽培されているそうです。形は寸胴型、身質は緻密でかたく、煮崩れしにくく、乾燥しても変色しにくいのが特徴。ゆで干し大根には最適の品種といえます。
ゆで干し大根作りは、原料となる大栄大蔵の栽培から始まります。大石さんはご夫婦で約1万㎡の畑を管理。8月下旬に種まきして、12月下旬から収穫を始めます。土から引き抜いたそばから大根の頭と尻を切り落とし、なるべく収穫した当日に洗浄して、下準備は完了。
「あとは、切って、ゆでて、干す。それだけ!」と栄子さんは朗らかに教えてくれます。続けて「単純ですが、だからこそ難しいです」とも。
洗浄後の大根はまず、包丁やピーラーに似た専用道具でひげ根や傷の入った部分をそぎ落とします。さらに機械で長さ20㎝、幅1㎝ほどの短冊切りにして、熱湯を沸かした釜へ。指先でプツッと切れるやわらかさになるまで12~16分ゆで、熱々の状態で軽トラックの荷台に並べたコンテナへ移すとゆでる作業は終わりです。大石さんは間髪入れずに軽トラックに乗り込み、干し場がある山の手へ大根の湯気を散らしながら走り去って行きました。
面高郷の人たちは、干し場を〝やぐら〟と呼びます。やぐらは、海沿いの断崖の上に生産者が手作り。五島列島から海を渡った寒風が崖にぶつかり、高さ30~50mのやぐらに向けて吹き上げることで、干した大根が乾燥する仕組みです。大石さんはやぐらの上で、黙々と大根を広げていきます。ダマにならないようにふるうようにしてかたまりをほぐしながら干すのがポイントのようです。大石さんは「均一に広げるのではなく、意図的に薄い箇所を作ります。風の通り道を作るのです」とぽつり。風速は、3mが理想。天気は快晴よりも薄曇りで、気温15度以下の日が一番よく乾くそうです。
乾き上がるまでにかかる時間は一~二昼夜が目安。干しっぱなしにすると干しムラの原因になるので、5時間ほどの間隔でやぐらに上り、ほぐす作業を繰り返します。栄子さんは気恥ずかしそうに「昔、寝過ごして大根と大根がくっついてしまったこともあるんですよ」。雨が降ったらビニールシートをかけにやぐらへ走り、乾きが悪い日は昼も夜もなくほぐしに向かいます。「すべては〝大根風〟次第です。天気が相手だから思うようにいかないのは仕方がない」と大石さん。栄子さんは「油断大敵! 12月下旬から生産が終わる翌年2月末までは気が抜けません」と笑いました。
干した大根は、さらに乾燥機にかけて水分含有量を14%以下まで落としてから製品化されます。等級は色味で選別され、飴色が特級品。JAを通じて九州と関西を中心に、全国各地に出荷します。
湯に10分、水なら15分ほど浸して、軽く絞ってから調理します。定番は味噌汁の具。再加熱せずにサラダでも食べられ、イカや野菜と炒め煮したり、干瓢(かんぴょう)の代わりに押し寿司の具にしたり…。一度ゆでてあるからふっくらと戻り、味がなじみやすく、料理にもコクが出ます。
たくさんの旨みと栄養素を持つ野菜。もちろん、生のまま食べたり調理したりしてもそれらをダイレクトに吸収することができますが、天日干しをすることで、旨味と栄養がギュッと凝縮され、さらにおいしくなります。ここでは、乾燥野菜の栄養価についてご紹介します。
野菜は水分が多いため腐敗しやすく、収穫後も呼吸をしていることから、旨味や甘味が消費されて味や栄養価が損なわれやすくなります。しかし、天日干しにすることで水分が減少し(数~30%)、その保存性を向上させることができるのです。
また、干すことで野菜に含まれるビタミンDやカルシウム、鉄分などの栄養価がアップすることも報告されています(日本医師会より)。中でも、骨を強くしたり、風邪の予防をしたり、腸からのカルシウム吸収を促したりする働きがあるビタミンDは、増えることで、カルシウムの吸収率もより高まります。
さらに、グルタミン酸やアスパラギン酸など、独特の旨味成分が増えていきます。芋類など、でんぷんを多く含む野菜は、炭水化物の量が多く、干すことにより甘味が強くなるでしょう。
干し野菜は食物繊維も豊富で、整腸作用や血糖上昇の抑制、免疫機能の向上など、様々な役割を果たしてくれます。
逆にビタミンCは、日光にさらされることや乾燥加熱処理により、減少してしまいます。対策としては、短時間で乾燥をできるだけ低温で行うことにより減少を抑えることができますが、生野菜と比べるとどうしても少なくなるでしょう。
最近では、凍結乾燥などの新しい技術の実用化により、野菜の特性を損なわない方法が開発されていますが、家庭では、野菜を乾燥した後すぐ真空パックに入れるか、早く使い切ることで栄養成分が損なわれるのを少しでも防ぐことができるようになりますよ。
干し野菜には、クロロフィルやカロテノイドなど、様々な色素成分が含まれています。これらの色素は干すことで濃縮されるため、鮮やかな色味になる野菜もあります。 また、生野菜に比べて野菜独特の味わいや香りが強くなるものもあります。干すことによって、糖類やアミノ酸、苦味・辛味成分が混在した呈味(ていみ)成分が生まれるためです。 つまり、干し野菜は干す前とは異なる独特の風味を感じることができ、粘性や弾力性などに富んだ質の良い野菜となるのです。
干し野菜と一口に言っても、セミドライとフルドライの2種類があります。セミドライは、水分が残る状態で乾燥させたもの。食感は通常の野菜に近いですが、旨味は濃縮されています。水分が多いとカビが生えたり、雑菌が繁殖したりする原因となるため、できるだけ早く食べきりましょう。
フルドライは、野菜の水分をしっかりと飛ばした状態のこと。長期保存に向きますが、野菜によっては調理前に水やお湯などにつけて戻す必要があります。
栄養たっぷりの干し野菜、ぜひ、様々な野菜でチャレンジしてみてください。
管理栄養士30年、フードコーディネーター10年の知識と経験を掛け合わせ、食に関するプロデュースや形のない食堂《春陽食堂》を切り盛りする。また、家庭料理を中心とした料理教室や、頑張らない離乳食教室を主催。
乾燥して小さくなっているのに、生よりも味わい深い干し野菜。
干し野菜のいいところをもっと知るために、
無添加乾燥野菜ブランド「HOSHIKO」の冨永詩織さんにお話を伺いました。
常温でコンパクトに長期保存でき、水で戻すだけで料理に使える干し野菜。「家庭に常備しておくと、食事の用意がぐっと楽になりますよ」と冨永詩織さん。料理によっては戻さずに使えるレシピもあり、乾燥前にカットされているので下処理いらず。食材によっては生よりも手軽に使えるアイテムかもしれません。
干し野菜のいいところはたくさんありますが、冨永さんに大きな5つを挙げてもらいました。
「現代人はみんな忙しい日々を送っています。料理をしようと張り切って生野菜を買っても、使い切れずに冷蔵庫でダメにしてしまった経験はどなたにでもあるのでは?」と冨永さん。干し野菜なら好きなタイミングで必要な分だけ使うことができるので、〝使い切らなければ〟というプレッシャーやストレスから解放されます。また、食品ロスの削減にもつながります。
複数種類がミックスされた干し野菜は水を加えて餃子の具に。甘味が凝縮した干したまねぎは、〝飴色たまねぎ〟の代わりにカレーのベースに使えます。野菜の旨味が出た戻し汁はスープに利用すると無駄もありません。冨永さんは「干し野菜は使うのが難しいと思われがちですが、実はとても便利な食材です。まずは味噌汁の具にプラスしてみるところから始めてみませんか」と教えてくれました。
大根やネギなどの定番以外にも、さまざまな野菜が
干し野菜や乾燥野菜として製品化されています。
「HOSHIKO」の製品から、ちょっと珍しいラインナップをご紹介します。