活火山と生きる
阿蘇ジオツーリズム
阿蘇は世界有数の巨大カルデラのまち。
人々は古代より噴火を続けている活火山を信仰し豊かな自然の恩恵を受けながら暮らしています。
2016年4月、熊本地震により阿蘇エリア甚大な被害に遭いましたが
昨年、待望の「新阿蘇大橋」が完成し、「北側復旧ルート」も開通しました。
復興しつつある南阿蘇を訪ね、地球の自然を学ぶ「ジオツーリズム」を体験しました。
立ち上る噴煙、
生きている火山とふれあう。
福岡市から車で約2時間半、熊本県・阿蘇を代表する観光スポットで、標高1140mにある草原「草千里ヶ浜」に到着。活火山である阿蘇の自然を間近で感じるため、「阿蘇ジオガイドツアー」を体験してきました。
当日は「噴火警戒レベル2」で火口周辺は立ち入り規制中。
火口に近づけないため、阿蘇五岳の一つ「杵島岳」に登るトレッキングに挑戦です。ジオガイドの家入さんに案内していただきました。
阿蘇カルデラを造った大噴火は4度あり、特に9万年前の大噴火では火砕流は遠く山口県・長崎県まで届き、火山灰はなんと北海道東部にも堆積しているそうです。
杵島岳は約3500年前の噴火によって形成された山で、現在は活動を終えた火山。
阿蘇の火山の中では比較的新しく、浸食されていないため、生々しい火口跡などをまだ多く残しています。
登山道は斜面に沿って階段が整備され、登山初心者も気軽に登ることができます。
▲ 杵島岳登山道入口は草千里ヶ浜の駐車場のすぐ近くに。
▲ 火山岩を手に取って観察もできます。
とはいえ800段以上の長い階段、息を整えながら何とか登ること約40分で山頂へ。
360度見晴らしのいい展望が待っていました。眼下には広大な草千里ヶ浜、横には今も火山活動を続けている荒々しい「中岳」。その火口の淵からモクモクと白い噴煙が立ち上る姿を望めます。
▲ ジオガイドの家入さんより阿蘇・杵島岳トレッキングを案内していただきました。
▲ 登るほどに眺望が開けます。後ろは草千里ヶ浜と烏帽子岳。
火口跡をお鉢巡り。
登山を終えて博物館で学ぶ。
杵島岳は、火口跡をぐるりと一周する「お鉢巡り」ができます。アップダウンがあり、しかも火山岩が露出したデコボコ道。 草原で覆われた山が、火山であったことを実感します。反対岸に行くと、カルデラ地形がわかる外輪山や、均整のとれた円錐状の火山「米塚」がよく見えました。
▲ 杵島岳のへこんだ火口跡。一周30分程度でひと巡りできます。
約30分かけてお鉢巡りをしたあとは、阿蘇の絶景を眺めつつ下山。およそ2時間のトレッキングを楽しみました。 草千里ヶ浜へ戻り、阿蘇火山博物館を見学。1階は阿蘇山上ビジターセンター、2階と3階がミュージアムです。阿蘇エリアの自然と阿蘇カルデラの成り立ち、火山の特性から防災まで幅広く知ることができます。
▲ 麓に見えるのは阿蘇を代表する景色で有名な「米塚」。冬枯れてプリンのようです。奥には外輪山の姿がよくわかります。
▲ 阿蘇火山博物館では、火山の成り立ちや地質などを深く学べます。
博物館の目の前に広がる草千里ヶ浜も、実は火口の跡。草原に2つの池が存在しますが、いずれも火口の名残だそうです。 春になれば、杵島岳や草千里ヶ浜も、青々とした草原が甦ります。自然観察、乗馬体験もでき、冬とはまったく違う阿蘇の表情を楽しめます。
▲ 5面マルチホールでは阿蘇の火山とカルデラの歴史に関する映画を上映。
▲ 噴火のライブ映像が見られる中岳火口プロジェクションマッピング。火口を覗いている感覚を味わえます。
阿蘇の観光ガイド(有料)
阿蘇の見どころを案内するジオガイドを依頼できます。
阿蘇ジオパーク
阿蘇山上を中心のトレッキングコースのガイドを依頼できます。
阿蘇火山博物館
防災・減災の大切さを知ることも
自然と共に生きること。
阿蘇地域は、熊本地震によって、鉄道、主要道路、橋などが被災し、交通インフラが寸断されました。土砂災害の多くは阿蘇カルデラ火山に由来する地形や地質的なことが要因だそうです。火山と暮らす阿蘇の人々にとって、防災も含め自然と共に生きることなのかもしれません。
熊本県では、被災地の復興とともに、熊本地震の経験を風化させずに後世に伝えるプロジェクトが進んでいます。南阿蘇にある旧東海大学阿蘇キャンパスは「熊本地震 震災ミュージアム(※1)」の拠点施設。被災した建物と真下を通る断層がむき出しになった様子を見学できます。
▲ キャンパスの敷地内に現れた地表地震断層。地面の隆起や亀裂、地面の横ずれがわかります。
▲ 熊本復興プロジェクト(※2)で県内各地にマンガ「ONE PIECE」の仲間たちの銅像が続々と設置中。旧東海大学阿蘇キャンパスは考古学者の「ロビン像」。歴史の語り部として記憶と教訓を語り継ぐ手助けをするという意味が込められています。
また、昨年竣工した「新阿蘇大橋」は新たな観光スポットに。橋のたもとには展望所があり、全長525m、最大橋脚高97mの強靭な橋の景観を望めます。
この5年の間に交通インフラも少しずつ復旧し、あとは2023年夏の南阿蘇鉄道の全線開通を待つばかりです。アクセスが便利になり、復興を遂げつつある南阿蘇。ぜひ地球や大地の偉大なストーリーにふれる旅(ジオツーリズム)へ出かけてみませんか。
▲ 地震で崩壊した阿蘇大橋から600m下流に架橋された「新阿蘇大橋」。歩道も設置され、歩いて渡ることができます。
▲ 阿蘇キャニオンテラスに登場した迫力満点の「あそぶらんこ」。新阿蘇大橋が真下に。
(※1)熊本地震 震災ミュージアム
https://kumamotojishin-museum.com/
(※2)熊本復興プロジェクト
https://op-kumamoto.com/
南阿蘇
GUIDE MAP
1.阿蘇神社
約2300年の歴史を持つ、全国に約500社ある阿蘇神社の総本社。阿蘇山火口を神体とする火山信仰と融合し、崇められてきました。
2.阿蘇火山博物館
1階に「阿蘇山上ビジターセンター」があり、2階と3階はミュージアム施設。阿蘇の自然と火山、カルデラの成り立ちなどを幅広く学べます。草千里や杵島岳などガイドツアーの案内も行っています。
無休 9:00〜17:00
TEL : 0967-34-2111
3.熊本地震震災ミュージアム
熊本地震を通して得られた教訓等を震災遺構とともに伝えるフィールドミュージアム。中核拠点の旧東海大学阿蘇キャンパスでは、被災した建物や地表地震断層を見学できます。
年末年始・火曜定休
9:00〜17:00(冬季は16:00迄)
4.垂玉温泉 瀧日和
明治期に与謝野鉄幹、北原白秋ら5人の紀行文で知られる『五足の靴』一行が訪れた名湯、垂玉温泉の旧山口旅行。熊本地震から5年を経て、昨年4月に日帰り温泉施設として生まれ変わりました。大浴場と貸切湯があり、カフェや貸切休憩所でくつろぐこともできます。
日帰り入浴/水曜定休
10:00〜19:00
TEL : 0967-67-0006
5.地獄温泉 青風壮
熊本地震から4年半の時を経て復活。古くから湯治場として親しまれ、底からぶくぶくと湧き出す泥湯が有名な「すずめの湯」。混浴の露天風呂ですが、これを機に湯浴み着や水着で入浴できるようになり、休憩所も新設。レストランや離れの客室(湯治宿)もオープンしました。
日帰り入浴/火曜定休
10:00〜17:00
TEL : 0967-67-0005
南阿蘇 グルメ
A.草千里珈琲焙煎所
草千里の展望レストラン「ニュー草千里」1階に、昨年9月オープン。熊本市の人気店・珈琲回廊がプロデュースしたカフェです。オランダに本社がある「キース・ファン・デル・ウェステン」のマシンで淹れたエスプレッソのほか、ドリップコーヒーやネクターなどメニューも充実。
不定休 10:00〜17:00
TEL : 0967-34-0131
B.道の駅 あそ望の郷くぎの
阿蘇五岳を南阿蘇側から一望できる道の駅。阿蘇の特産品や土産のお買い物、食事ができるのはもちろん、パークゴルフ場、そば道場、あか牛のレストラン、モンベル南阿蘇店など施設も揃っています。
食事処あじわい館/10:00〜17:00
TEL : 067-67-3010
阿蘇五岳を眺められる展望デッキがあります。阿蘇特産のあか牛をいただきました!
C.新阿蘇大橋展望所 ヨ・ミュール
ヨ・ミュールは熊本弁で「よく見える」という意味。昨年3月に開通した「新阿蘇大橋」と、「長陽大橋」や「白川第一橋梁(南阿蘇鉄道)」を見渡せるほか、休憩スペースやご当地ジェラートが楽しめる売店があります。
ジェラート店/11:00〜17:00
TEL : 0967-67-1112
(南阿蘇村産業観光課)
阿蘇で人気の阿部牧場のASO MILKを使ったジェラート。オススメは「南阿蘇エレガンテ」(シングル400円)、和紅茶のフレーバーが濃厚です!
阿蘇ユネスコ世界ジオパーク
「阿蘇ジオパーク」として世界ジオパークネットワークに加盟認定。
阿蘇火山の自然と歴史を語る地球遺産を守り伝える活動が行われています。
阿蘇カルデラって?
九州の真ん中に火山によってできた巨大な陥没地形、それが阿蘇カルデラです。約27万年前から火山活動が始まり、14万年前、12万年前、9万年前の巨大噴火によって大きな陥没がおこり、その縁が崩落を続けて拡大しました。東西約18km、南北約25㎞、面積約350㎢の広さで、世界最大クラスの規模を誇ります。
① 火山が爆発して、マグマが噴出。
② マグマがなくなり陥没、凹んだ地形がカルデラです。
③ カルデラができた後も、中岳などの中央火口丘群で噴火が続いています。
カルデラに人は住んでいる?
通常、陥没したカルデラには水が溜まり湖ができます。阿蘇カルデラは、外輪山の一部(立野の付近)が崩壊して水が逃げ、人が住めるようになったのです。かつての湖の底に、現在約5万人が暮らしています。カルデラの内側に街が築かれることは世界的にも極めて珍しいことなのです。
じつは阿蘇山という山はない?
カルデラの中央部には、今も噴煙を上げ続けている中岳(なかだけ)と、根子岳(ねこだけ)、高岳(たかだけ)、烏帽子岳(えぼしだけ)、杵島岳(きしまだけ)の「阿蘇五岳(あそごがく)」がそびえ立っています。麓には平坦なカルデラの底地が広がり、その周りを取り囲むように「外輪山」があります。阿蘇山という単体の山はなくこれらの外輪山まで含めて「阿蘇火山」と呼ばれています。
阿蘇の神話
昔、阿蘇のカルデラの中は湖沼であった。宮崎方面から来た健磐龍命(たけいわたつみのみこと)は、ここを豊穣の地にしようと考えた。外輪山の低いところを蹴ったが、峠が二つもあって壊れず、隣を蹴破って水を抜いた。壊せなかった場所が「二重峠」、蹴破った際に尻もちをついて「立てぬ」と言った場所が「立野」の地名の由来だという。健磐龍命は阿蘇開拓の主神祭として阿蘇神社に祀られいる。
草原で放牧されている「あか牛」。有史以来、牛馬の放牧地として利用され続けたことが、雄大な阿蘇の草原風景を守っています。
噴煙を上げる中岳火口。白い噴煙は主に水蒸気で、火山岩や岩石の粒子が含まれると黒色の噴煙が上がります。(※)
お釈迦様の寝姿に見える阿蘇五岳
大観峰からの風景
北側の阿蘇市から阿蘇五岳を眺めると、お釈迦様が仰向けに寝ているように見えることから「阿蘇の涅槃像(ねはんぞう)」と呼ばれています。写真左端のギザギザしている根子岳が顔で、中岳はおへそ、烏帽子岳と杵島岳は膝です。
※阿蘇のカルデラ地域を訪れる際は、気象庁が発する阿蘇の「噴火警戒レベル」等の最新情報を確認してください。
⇒コチラからチェックできます
中岳赤穂付近は2022年1月12日現在、噴火警戒レベル2で火口から概ね1㎞以内の立ち入りを禁止しています。
編集後記
今回の阿蘇特集はいかがでしたか?熊本地震では大きな被害を受け、その様子を伝えるニュースに強い衝撃を受けた方も多いのではないでしょうか。復興は確実に進んでいますが、ふと目にした光景から地震の激しさを実感することも。雄大な阿蘇の自然を楽しむとともに、災害に対する日頃の備えについて改めて考えさせられる取材でした。皆様もぜひ、復興と進化を遂げた阿蘇に足を運んでみてくださいね。
スタッフ 横尾